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マンドリンオーケストラのための“懶(らん)”(作曲:遠藤秀安) [曲目解説]

※第5回演奏会、2009年11月1日、名古屋市名東文化小劇場
第二ステージ2曲目、指揮:大橋一輝

遠藤秀安(b.1970)は名古屋市生まれ、
愛知県立大学ギターマンドリンクラブでコントラバスと指揮を担当。

卒業後、保育士・学童保育指導員を経て、
愛知県立芸術大学音楽学部作曲専攻に入学・卒業。

2005年に愛知県幸田町の
町村合併50周年記念事業ミュージカル『星の降るまち』を作曲。
2013年に幸田ミュージカル『さよなら、ブルーバード』を作曲。

他、マンドリンや吹奏楽、人形劇、
さらにはローカルヒーローの主題歌など幅広い分野での作曲を手掛ける。

マンドリン合奏曲としては、
『the seventh islands(2002、2006)』『Spica’s Spanker(2006)』
『AQUA EXPRESS(2009)』などがあるほか、多数の編曲作品がある。

2008年より愛知県立芸術大学非常勤講師。

本作は作曲者のマンドリンオーケストラ曲としては処女作であり、
日本マンドリン連盟主催の第6回マンドリン合奏曲作曲コンクール
(審査委員:池辺晋一郎、藤掛廣幸、久保田孝)で
第1位を受賞した作品。

東京のイルヴェント・マンドリーノ第4回演奏会(2000年)で初演。

曲名の“懶(らん)”とは、おこたる、なまける、億劫という意味。

作曲者は、本作を作曲したときの心情を
「自分自身の『こうありたい・こうあらねばならない』という思いと
現在の自分の状況の落差、理想と現実の狭間に埋もれる不安な気持ち」
と述べており、
この曲名は上記のような心情を自虐的に示したものと思われる。

冒頭マンドラによって呈示される虚ろ気なメロディが
モティーフとして全曲の核となり、展開していく。

時に諧謔的に、時に静謐な空間を描き、
あるいはバルトーク・ピチカートが炸裂する展開部を経て、
再現部で主題を歌い上げる。

やがて怒涛のような終結部に至るが、
すぐに力を失いギターの瞑想的な余韻の中、曲を締める。

(以下余談)

作曲者のウェブサイト
もう少し詳しい解説がありますのでそちらも併せてお読みください。

正直この曲で“懶(らん)”という漢字を知ったという人は多いでしょうが^^;
この解説を読むと非常に私小説的な作品かと思ってしまいますね。

ただこの曲に関しては、作曲当時の心境をそのまま曲にトレースし、曲名を付けたというよりも、
自分に喝を入れるためのタイトルであって、作品はそこから離れて聞かれるべきかと思います。

(余談ですが「火垂るの墓」を書いた野坂昭如氏の娘が
学校で「火垂るの墓の作者はどのような心境でこの作品を書いたか考えましょう」
という宿題が出たので、著者である父親に尋ねたところ、
「締め切りに追われてヒイヒイ言っていた」と答えた^^;という逸話も、
作品と作者をどれくらい重ねて作品を享受するかという問題と
重なるところがあるかと思います)

個人的にはこの曲のラストのプレストで駆け抜け、
その興奮の頂点でマンドリンがグリッサンドして急速に沈静化する部分が
非常にかっこいいと思っています。


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